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2025.07.30
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す、慢性的な皮膚の病気です。
この病気は単なる乾燥肌とは異なり、皮膚のバリア機能の低下や免疫システムの関与など、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。
多くの患者さんは、アレルギー反応を起こしやすい「アトピー素因」と呼ばれる体質を持っています。
アトピー性皮膚炎ガイドラインでは診断においてアレルギーの存在は必須ではないとされました。
日常生活に大きな影響を及ぼすこともあるため、まずはその特徴を正しく理解することが、適切な治療への第一歩となります。
Contents
アトピー性皮膚炎の診断は、主に3つの特徴的な症状に基づいて行われます。
第一に、我慢するのが難しいほどの強い「かゆみ」があることです。
かゆみから皮膚を掻き壊してしまうと、それがさらなる刺激となって炎症が悪化し、かゆみが一層強まるという悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)に陥りやすくなります。
第二に、赤みやブツブツ、じゅくじゅくとした滲出液、カサカサしたうろこ状の皮膚(鱗屑)といった「特徴的な湿疹」が見られます。
慢性化すると、皮膚がゴワゴワと硬く厚くなる「苔癬化(たいせんか)」という状態になることもあります。
第三に、これらの症状が良くなったり悪くなったりを「繰り返す経過」をたどる点です。
診断基準として、乳児では2ヶ月以上、それ以外の年齢では6ヶ月以上にわたって症状が続くことが一つの目安とされています。
アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によって現れやすい部位が変化するのが大きな特徴です。
乳児期(生後2〜3ヶ月頃から)は、はじめは頬や口の周り、頭皮など顔を中心に、カサカサしてかゆみを伴う赤い湿疹が出やすい傾向があります。
その後、症状は首や背中、手足へと広がっていき、じゅくじゅくとした状態になることも少なくありません。
幼小児期・学童期になると、首の周りやひじの内側、ひざの裏側といった関節の曲がる部分に症状が集中しやすくなります。
この時期の皮膚は全体的に乾燥が目立ち、鳥肌のようにザラザラした見た目になることも特徴です。
思春期・成人期では、顔や首、胸、背中といった上半身に症状が強く出る傾向が見られます。
長年の炎症の繰り返しにより皮膚がゴワゴワと硬くなったり、色素沈着を起こしたりすることもあり、患者さんのQOL(生活の質)に深く関わってきます。
| 年齢層 | 好発部位 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 乳児期 | 顔、頭、首 | はじめは乾燥と赤み。次第にじゅくじゅくした湿疹が体幹や手足に広がる。 |
| 幼小児期 | 首、ひじ・ひざの裏側、手首、足首 | 関節部分に湿疹が集中。皮膚全体が乾燥し、カサカ-サした状態が目立つ。 |
| 思春期・成人期 | 顔、首、胸、背中など上半身 | 湿疹が慢性化し、皮膚がゴワゴワと厚くなる(苔癬化)。色素沈着も起こりやすい。 |
アトピー性皮膚炎は、単一の原因で発症するわけではありません。
遺伝的な体質に、皮膚の状態やさまざまな環境要因が複雑に絡み合うことで発症すると考えられています。
原因を正しく理解することは、なぜ特定の治療やスキンケアが必要なのかを納得し、治療を継続していく上で非常に重要です。
この病気の背景にある3つの主要な要因を理解することで、より効果的な対策へとつなげることができるでしょう。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚には、外部の刺激から体を守る「バリア機能」が低下しているという根本的な問題があります。
健康な皮膚は、レンガとモルタルでできた壁のように、皮膚の細胞が細胞間脂質でしっかりと満たされ、外部からの刺激物質の侵入や内部からの水分の蒸発を防いでいます。
しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚ではこの「モルタル」にあたる部分が不足しているため、アレルゲンや細菌などが容易に侵入し、炎症を引き起こしやすくなっています。
また、皮膚内部の水分も外へ逃げやすいため、皮膚が常に乾燥した状態に傾きがちです。
このバリア機能の低下こそが、アトピー性皮膚炎のさまざまな症状の引き金となる、最も重要な要因の一つと考えられています。
アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、「アトピー素因」と呼ばれる体質を持っています。
アトピー素因とは、本人や家族が気管支喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患にかかったことがある、もしくは、ホコリや花粉といったアレルゲンに対して「IgE抗体」というタンパク質を作りやすい遺伝的な素質のことです。
この体質があると、本来であれば体に害のないはずの物質に対しても免疫システムが過剰に反応し、皮膚に炎症を引き起こしやすくなります。
皮膚のバリア機能が低下した状態のところにアレルゲンが侵入すると、このアトピー素因を持つ人の体では免疫システムが過剰に働き、かゆみや赤みといったアレルギー性の炎症が起きてしまうのです。
バリア機能の低下という「外的要因」と、免疫の過剰反応という「内的要因」が相互に影響しあうことで、症状が維持・悪化すると考えられています。
アトピー性皮膚炎の根本原因ではありませんが、症状を悪化させる「悪化因子」が日常生活のさまざまな場面に潜んでいます。
汗や皮膚の汚れは、それ自体が刺激となり、かゆみを誘発する大きな原因です。
また、空気の乾燥は皮膚の水分を奪い、バリア機能のさらなる低下を招きます。
衣類の摩擦、特にウールなどのチクチクする素材は、物理的な刺激となって症状を悪化させることがあります。
その他にも、ダニやハウスダスト、ペットの毛、特定の化粧品、睡眠不足や精神的なストレスなども、免疫やホルモン(コルチゾールなど)のバランスを乱し、症状を悪化させる要因として知られています。
これらの悪化因子を日常生活からできるだけ取り除き、規則正しい生活を送ることが、症状を安定させる上で非常に大切です。
アトピー性皮膚炎の治療は、一つの方法だけで完結するものではなく、3つのアプローチを組み合わせた総合的な管理が基本となります。
「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の対策」という3つの柱は、それぞれが異なる役割を担っており、互いに補い合いながら治療効果を高めます。
この3本柱をバランス良く実践することが、症状をコントロールし、良い状態を長く維持するための鍵です。
どれか一つでもおろそかになると、他の二つの効果も十分に得られなくなるため、三位一体で取り組む意識が重要になります。
アトピー性皮膚炎治療において、基本となるのが薬物療法です。
その主な目的は、皮膚で起きている「炎症」という火事を、抗炎症作用のある塗り薬などを使って的確に鎮めることです。
かゆみや赤みといったつらい症状は、この炎症によって引き起こされているため、まずは薬の力で炎症をしっかりと抑え込むことが最優先されます。
炎症を放置すると、かゆみで掻き壊してしまい、皮膚のバリア機能がさらに破壊され、症状が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環を断ち切るために、薬物療法は不可欠な柱と言えます。
アトピー性皮膚炎の皮膚は、バリア機能が低下して乾燥しやすい状態にあるため、保湿剤を塗ることで失われた水分と油分を補い、バリア機能をサポートする必要があります。
これは単に肌を心地よくするためだけでなく、外部からのアレルゲンや刺激物質の侵入を防ぎ、炎症の再燃を予防するという積極的な治療行為です。
症状が良い時も悪い時も、毎日欠かさず保湿ケアを続けることで、皮膚そのものを刺激に強い状態に整え、薬を使う頻度を減らしていくことにもつながります。
スキンケアは、治療の土台を築く大切な習慣なのです。
3つ目の柱は、症状を悪化させる原因となる刺激を日常生活から見つけ出し、それらを避けるための工夫をすることです。
汗をかいたらこまめにシャワーを浴びたり拭き取ったりする、肌触りの良い木綿の衣類を選ぶ、部屋を清潔に保ちダニやハウスダストを減らすといった対策がこれにあたります。
また、睡眠不足やストレスも症状を悪化させることが知られているため、規則正しい生活を心がけ、リラックスできる時間を持つことも重要です。
この柱は、患者さん自身が主体的に取り組める部分であり、自分の生活習慣を見直すことで症状のコントロールに直接的に貢献できます。
薬物療法やスキンケアの効果を最大限に引き出すためにも、悪化因子への対策は欠かせません。
また近年皮膚の細菌叢もかゆみのファクターとして注目されています。海外ではブリーチバスが推奨されており、皮膚の細菌やカビ対策も症状改善に有用です。
アトピー性皮膚炎の薬物療法の中心は、炎症を抑えるための塗り薬(外用薬)です。
塗り薬にはいくつかの種類があり、症状の重さや体の部位によって適切に使い分けることが、効果的かつ安全な治療の鍵となります。
ステロイド外用薬は、強力な免疫抑制と抗炎症作用を持ちます。抗炎症作用の強さによって、最も強い「ストロンゲスト」から最も弱い「ウィーク」までの5段階にランク分けされています。
治療の原則は、症状の重さに見合った十分な強さの薬を選び、短期間でしっかりと炎症を抑え込むことです。不適切な長期の連用によって皮膚が薄くなることやバリア機能の低下、全身性に大脳ー下垂体ー副腎系のホルモン抑制がかかることがあります。
弱いランクの薬を長期間だらだらと使い続けるよりも、適切な強さの薬で一気に症状を改善させる方が、結果的に薬の使用量を減らせる場合があります。
一方ステロイド外用薬を頻用しない場合は弱いランクでも十分効果があるので医師の指示に従い、短期に抑える目的として使用しましょう。
また、薬の吸収率は体の部位によって大きく異なるため、使い分けが重要です。
皮膚が薄くデリケートな顔や首には原則としてマイルドクラス以下の弱いものを、皮膚が厚い手足や体にはストロングクラス以上のもの、というように部位に応じたランクの薬が選択されます。
塗る量の目安として「フィンガーチップユニット(FTU)」という考え方があります。これは、大人の人差し指の第一関節までチューブから薬を絞り出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのが適量とされています。
| ランク | 強さ | 代表的な薬剤名(一般名) | 主な使用部位 |
|---|---|---|---|
| I群 | Strongest (最も強い) | クロベタゾールプロピオン酸エステル | 非常に重い症状のある体幹・四肢 |
| II群 | Very Strong (とても強い) | ジフロラゾン酢酸エステル、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル | 重い症状のある体幹・四肢 |
| III群 | Strong (強い) | ベタメタゾン吉草酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル | 中等度の症状がある体幹・四肢、軽症の苔癬化病変 |
| IV群 | Medium (おだやか) | ヒドロコルチゾン酪酸エステル、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル | 顔、首、陰部などのデリケートな部位、軽症の体幹・四肢 |
| V群 | Weak (弱い) | プレドニゾロン | 顔、首などの特にデリケートな部位 |
ステロイド外用薬以外にも、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える塗り薬があります。
ステロイドとは異なる作用機序で炎症を抑えるため、ステロイドの長期使用で懸念される皮膚が薄くなる、副腎抑制などの副作用が起こりにくいのが特徴です。またバリア機能を改善させる報告があり長期外用に向いています。
免疫抑制剤で、炎症を抑える力はステロイド軟膏に次いで強いです。
炎症が強い部位に使うと吸収量が増え、刺激感が強く出ることがあります。そのため、悪化する前や軽度の炎症時に使用してください。
日光に当てないようにする必要があり、顔や手は夜のみ使用します。
皮膚のバリア機能を改善する効果があり、炎症を抑えつつ皮膚の質感が改善します。
プロトピック®と同じ免疫抑制剤ですが、
という特徴があります。
症状がひどい場合には積極的な使用を推奨します。
効果はプロトピック®より弱めなので1日2回しっかり外用しましょう。
長期外用で皮膚バリア機能も改善します。
ただし、単純ヘルペスやカポジ水痘様発疹症が悪化することがあります。小さな水ぶくれが多発し、かさぶたができる症状が出たら使用を中止してください。
免疫調整剤です。
炎症を抑える力はコレクチム®と同等かやや弱い印象ですが、感染症には比較的強いです。
長期使用は、プロトピック®やコレクチム®が合わない場合の選択肢になります。
AhR調整薬という新しいタイプの外用剤です。
クリームタイプでべたつきが少なく、使用感が軽いのが特徴です。
主な効果
効果が出るまで時間がかかりますが硬くなった皮膚(苔癬化)が著明に改善します。
副作用として刺激感、頭痛、毛が濃くなる、毛穴が硬くなることがあり、症状が出た場合は必ずお知らせください。
免疫抑制剤を使うと、皮膚の細菌やカビ、ウィルスが繁殖しやすくなります。
黄色ブドウ球菌が作る毒素は、炎症とかゆみのスイッチであるTSLPを活性化させます。
夏の汗には皮膚常在菌のマラセチアが含まれ、アレルギーを引き起こすこともあります。
→ 皮膚の清潔と菌・カビ対策が重要です。
ヘルペスが増えると口唇に水疱ができたり 沢山の水疱がかさぶたになりアトピーの皮膚炎が悪化することがあります(カポジ水痘様発疹症)
アトピー性皮膚炎の治療は、近年、症状の再発そのものを防ぐという考え方へと大きくシフトしています。
その中心となるのが「プロアクティブ療法」と呼ばれる治療戦略です。
これは、湿疹が良くなった後もすぐに治療をやめるのではなく、良い状態を維持するために予防的に薬を使い続ける方法です。
これまでの、症状が悪化したら薬を塗る「リアクティブ療法」とは一線を画す、現代のアトピー性皮膚炎治療における非常に重要な考え方です。
このアプローチを理解し実践することが、つらい症状の波から抜け出し、穏やかな毎日を送るための鍵となります。
プロアクティブ療法が必要な理由は、アトピー性皮膚炎の皮膚には、見た目には綺麗に治ったように見えても、目に見えないレベルで炎症がくすぶり続けているためです。
この「潜在的な炎症」が残っていると、わずかな刺激がきっかけとなって、すぐに炎症が再燃してしまいます。
症状のぶり返しを繰り返すのは、この見えない火種が完全に消し止められていないことが大きな原因です。
プロアクティブ療法では、この潜在的な炎症をコントロールするために、症状が落ち着いた後も、抗炎症作用のある塗り薬を定期的に使用します。
これにより、炎症の火種を抑え込み、再燃そのものを起こしにくくすることができるのです。
プロアクティブ療法は、まず連日の薬物療法で皮膚の炎症を完全に抑え込み、つるつるの状態(寛解状態)にすることから始まります。
寛解状態に達したら、すぐに薬を中止するのではなく、塗る回数を徐々に減らしていきます。
例えば、毎日塗っていた薬を1日おきに、そして週に2回というように、間隔を空けていきます。
塗る場所は、以前に湿疹があった部位です。
この間、保湿剤によるスキンケアは毎日欠かさず続けることが非常に重要です。
もし途中で症状が再燃した場合は、一時的に毎日の塗布に戻して炎症をしっかり抑え、再び間隔を空けていくというサイクルを繰り返します。
この治療法は医師の指導のもとで行う必要があり、自己判断で薬を中断しないことが成功のポイントです。
塗り薬だけでは症状のコントロールが難しい中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対して、近年、治療の選択肢が飛躍的に増加しました。
これまでの治療で十分な効果が得られなかった患者さんにとって、これらの新しい治療法は、症状からの解放と生活の質の劇的な改善をもたらす可能性があります。
注射薬である「生物学的製剤」と、飲み薬の「JAK阻害薬」は、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす体内のメカニズムに、より直接的にアプローチする治療法です。
これらの登場により、治療のゴールは単に症状を和らげるだけでなく、「症状がほとんどなく、日常生活に支障のない状態」を目指すことが現実的になりました。
生物学的製剤は、体の免疫システムの中で、アトピー性皮膚炎の炎症に深く関わる特定の物質(サイトカイン)の働きをピンポイントでブロックする注射薬です。
「デュピルマブ(デュピクセント®)」は、炎症の中心的役割を担うIL-4とIL-13というサイトカインの働きを抑えることで、皮膚の炎症とかゆみの両方に高い効果を発揮します。
デュピクセント®は顔面紅斑や結膜炎が出現することがあり、継続に支障が出ることがあります。
そのような場合はIL-13製剤のトラロキヌマブ(アドトラーザ®)」や「レブリキズマブ(イブグリース®)への変更を検討します。顔の副作用が怖い方は初めに抗IL‐13製剤から開始しても良いと思います。
「ネモリズマブ(ミチーガ®)」は、かゆみを引き起こす信号として知られるIL-31の働きを直接抑えるため、特に強いかゆみに悩む患者さんに有効です。これらの薬剤は、2週間から4週間に1回の皮下注射で投与されます。
JAK阻害薬は、炎症を引き起こすさまざまなサイトカインからの信号を、細胞の中でまとめてブロックする経口薬(飲み薬)です。
細胞内にある「ヤヌスキナーゼ(JAK)」という酵素の働きを阻害することで、免疫細胞が過剰に活性化するのを防ぎ、皮膚の炎症とかゆみを強力に抑制します。
「バリシチニブ(オルミエント®)」、「ウパダシチニブ(リンヴォック®)」、「アブロシチニブ(サイバインコ®)」などの種類があります。
JAK阻害薬は、効果の発現が非常に速いという特徴がありますが、免疫系に幅広く作用するため、感染症などの副作用に注意が必要で、治療中は定期的な血液検査などによるモニタリングが不可欠です。
注射が苦手な方や、より速やかな効果を求める場合に良い選択肢となり得ます。
これらの新しい治療薬は高い効果が期待できる一方で、薬剤費が高額になるという側面があります。
例えば、デュピクセントの場合、3割負担の患者さんで月々約32,000円から48,000円程度の薬剤費がかかります。
JAK阻害薬であるリンヴォック®(15mg)の場合、3割負担で月々約39,000円が目安となります。
これは薬剤そのものの費用であり、別途診察料や検査料が必要です。
ただし、日本には「高額療養費制度」という医療費の助成制度があります。これは、1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
上限額は年齢や所得によって異なりますが、この制度を活用することで、経済的な負担を大きく軽減できる可能性があります。
治療を検討する際には、費用面についても主治医や医療機関の相談窓口でよく相談することが大切です。
| 薬剤名(商品名) | 分類 | 作用機序 | 対象 | 投与方法 |
|---|---|---|---|---|
| デュピクセント® | 生物学的製剤 | IL-4/IL-13の働きを阻害 | 生後6ヶ月以上 | 2〜4週間に1回の皮下注射 |
| ミチーガ® | 生物学的製剤 | かゆみを誘発するIL-31の働きを阻害 | 6歳以上 | 4週間に1回の皮下注射 |
| リンヴォック® | JAK阻害薬 | JAKファミリーの働きを阻害し、細胞内の炎症信号を遮断 | 12歳以上 | 1日1回の経口投与 |
| オルミエント® | JAK阻害薬 | JAKファミリーの働きを阻害し、細胞内の炎症信号を遮断 | 2歳以上 | 1日1回の経口投与 |
| サイバインコ® | JAK阻害薬 | JAK1を選択的に阻害し、炎症信号を遮断 | 12歳以上 | 1日1回の経口投与 |
| アドトラーザ® | 生物学的製剤 | IL-13の働きを阻害 | 12歳以上(体重40kg以上) | 4週間に1回の皮下注射 |
| イブグリース® | JAK阻害薬 | JAK1を選択的に阻害し、炎症信号を遮断 | 12歳以上 | 1日1回の外用薬(軟膏) |
アトピー性皮膚炎の治療効果を高め、良い状態を維持するためには、日々のセルフケアが非常に重要です。
医療機関での治療と並行して、日常生活の中に潜む悪化因子を減らし、皮膚のバリア機能をサポートする習慣を取り入れることが、症状の安定につながります。
スキンケア、衣類、住環境、食事、ストレス管理など、少しの工夫で皮膚への負担を大きく減らすことが可能です。
ここでは、今日から実践できる具体的なセルフケアのポイントと注意点を解説します。
スキンケアの基本は「清潔」と「保湿」です。
入浴やシャワーは、汗や汚れ、皮膚についたアレルゲンを洗い流すために重要ですが、洗いすぎは禁物です。
お湯の温度は38〜40℃程度のぬるめに設定し、石鹸やボディソープはよく泡立てて、ナイロンタオルなどは使わずに手で優しく洗いましょう。乾燥が強い場合は石鹸は陰部や脇は連日使用し、四肢、体幹は隔日など連日使用は避けましょう。
石鹸成分が皮膚に残らないよう、すすぎは十分に行うことが大切です。
入浴後は、皮膚が乾燥する前に保湿ケアを行うことが最も重要です。
タオルで水分をこすらずに優しく押さえるように拭き取ったら、5分以内を目安に、たっぷりの保湿剤を全身に塗りましょう。
これにより、皮膚に水分を閉じ込め、バリア機能を効果的に補うことができます。
衣類による摩擦や蒸れは、かゆみを引き起こす大きな原因となります。
肌に直接触れる下着は、吸湿性が良く肌触りのやさしい木綿(コットン)素材を選び、ウールや化学繊維のチクチクする素材は避けましょう。
化学繊維は汗を閉じ込めやすく、皮膚炎が悪化する可能性もあるので注意しましょう。
洗濯の際は、洗剤が衣類に残らないよう、すすぎを十分に行うこともポイントです。
また、住環境を整え、アレルゲンとなるダニやハウスダスト、カビを減らすことも大切です。
部屋はこまめに掃除機をかけ、寝具は天日干しや布団乾燥機を活用して清潔に保ちましょう。
室内の適切な温度(寝るときに汗をかかない程度が目安)・湿度(40‐60%)を保つことも、皮膚の乾燥や汗による刺激を防ぐ上で効果的です。
特定の食物がアトピー性皮膚炎の直接の原因となることは成人では稀ですが、一部の食品はかゆみを悪化させることがあります。腸内の炎症が全身の炎症を助長し、皮膚炎の悪化を招くこともあります。
アルコールや香辛料の多い食事は、血行を促進して体を温め、かゆみを強くする可能性があるため、症状が悪い時は控えめにするのが賢明です。
基本的には、栄養バランスの取れた食事を心がけることが、健やかな皮膚を保つ上で大切です。
また、精神的なストレスは自律神経や免疫、ホルモンのバランスを乱し、かゆみを悪化させることが知られています。
自分なりのリラックス法を見つけたり、十分な睡眠時間を確保したりするなど、ストレスを上手にコントロールすることも、アトピー性皮膚炎の重要なセルフケアの一つです。
特に乳幼児期のアトピー性皮膚炎では、多くの保護者の方が食物アレルギーとの関連を心配されます。
かつてはアトピー性皮膚炎があると、予防的に特定の食物を除去した方が良いと考えられていた時代もありました。
しかし、近年の研究により、その関係性についての理解は大きく進み、現在では安易な食物除去は推奨されていません。
皮膚の検査や実際に食べて症状がある場合において注意が必要です。
しかし、乳児期では消化機能が未熟なため一時的に反応する場合でも3歳頃には改善することが多いので状態に応じて接種をすすめて行きます。
アナフィラキシー症状が出た場合は改善か難しいので安易な接種は控えましょう。
最新の研究では、食物アレルギーは、食べ物として口から摂取することで発症するのではなく、バリア機能が低下した皮膚から食物の成分(アレルゲン)が侵入し、体がそれを異物として認識してしまう「経皮感作」も原因であると考えられています。
つまり、アトピー性皮膚炎などで荒れた皮膚を放置することが、食物アレルギー発症の最大のリスク因子となるのです。
この考え方は「二重抗原曝露仮説」と呼ばれています。
したがって、食物アレルギーを予防するために最も重要なことは、食物を除去することではなく、外用薬などによる適切な治療とスキンケアで、まず皮膚の炎症をしっかりと治し、バリア機能を正常な状態に保つことです。
皮膚を健康な状態に整えることが、アレルゲンの侵入を防ぎ、結果的に食物アレルギーの発症予防につながるのです。
血液検査(特異的IgE抗体検査)で特定の食物に陽性反応が出た場合は、「感作されている(体がアレルゲンを認識している)」状態です。抗原はたんぱく質で存在するので消化が進むと反応しないことが多いです、よってIgE陽性でも通常時に反応しないことがあります。
体調が悪い時に摂取して症状が出ることや、皮膚の症状だけでなく、下痢や便秘、腹痛などにも注意してみましょう。その症状が食物アレルギーをさします。
医師の診断がないまま自己判断で食物を除去してしまうと、子どもの成長に必要な栄養が不足してしまうリスクがあります。
また、適切な時期に特定の食物を摂取しないことで、かえってその食物への耐性(免疫寛容)が獲得できず、本来なら起こらなかったはずの食物アレルギーを発症させてしまう可能性も指摘されています。
食物アレルギーの関与が疑われる場合は、必ず専門医に相談し、必要に応じて食物経口負荷試験などの適切な検査を経て診断を受けることが不可欠です。
適切な対応で皮膚の治療を最優先で進めることが、お子さんの未来を守る上で最も大切なことです。
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