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2025.09.17
尋常性乾癬は、乾癬全体の約90%を占める最も一般的なタイプの慢性皮膚疾患です。
「尋常性」という言葉は「普通の」「よくある」という意味を持つため、特別な病気ではないことを示しています。
症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す特徴がありますが、命に関わることは通常ありません。
約1%の方は膿疱性乾癬と言って全身に広がって生命の危険性が出ることがあるので皮疹が全身に広がり、発熱が出るようなら要注意です。
ある日突然、皮膚に赤い発疹が現れ、それが数週間続くものの、しばらくすると少し落ち着くといった経過をたどることがあります。
しかし、疲れやストレスがたまると再び症状が強く出るなど、長い時間をかけて付き合っていく必要があります。
最も一般的なタイプだと知ることで、一人で悩まずに適切な治療に向き合う第一歩となるでしょう。
尋常性乾癬の皮膚には、「紅斑」「浸潤・肥厚」「鱗屑」という3つの特徴的なサインが現れます。
これは、免疫システムの異常によって皮膚の細胞が通常の約7倍の速さで過剰に作られてしまうためです。
この結果、皮膚に炎症が起き、未熟な細胞が積み重なって厚くなります。
具体的には、境界がはっきりした赤い盛り上がり(紅斑・肥厚)ができ、その表面が銀白色のフケのようなもの(鱗屑)で覆われます。
この鱗屑を無理に剥がすと点状に出血することがあり(アウスピッツ現象)、約半数の方にかゆみを伴います。
これらのサインは体の異常を知らせる重要な手がかりのため、自己判断せず専門医に相談することが大切です。
尋常性乾癬は、ひじやひざなど、日常的に刺激を受けやすい部位に症状が出やすい特徴があります。
これは、健康な皮膚でもこすったり傷つけたりする刺激が加わると、そこに新たな発疹ができてしまう「ケブネル現象」が関係しているためです。
衣類でこすれる腰回りや、髪の毛の刺激を受ける頭皮、膝をつく動作が多いひざなどが典型的な好発部位です。
また、患者さんの約2割では爪にも症状が現れ、表面に点状のくぼみができたり、爪が厚く変形したりすることもあります。
日常生活での些細な刺激が症状の引き金になることを理解し、肌を優しくいたわることが大切になります。
尋常性乾癬のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
特定の遺伝的素因を持つ人が、ストレスや生活習慣、感染症といった様々な外的・内的因子にさらされることで、発症のスイッチが入るとされているためです。
ただし、遺伝的素因があれば必ず発症するわけではありません。
日本人では親が乾癬の場合に子どもが発症する割合は4〜5%程度と報告されており、過度に心配する必要はないでしょう。
原因は一つではないと知ることで、生活習慣の見直しなど、自分にできる対策に目を向けるきっかけになります。
尋常性乾癬は、自身の免疫システムが誤って自分の皮膚細胞を攻撃してしまう自己免疫性疾患の一つです。
本来、体を守るはずの免疫が異常に働き、サイトカインと呼ばれる情報伝達物質を過剰に放出してしまうため、皮膚に炎症が引き起こされます。
このサイトカインの指令によって、皮膚の細胞が猛スピードで増殖し、特徴的な発疹が形成されるのです。
特に、TNF-α、IL-23、IL-17といったサイトカインが、乾癬の病態に深く関わっていることが近年の研究でわかってきました。
この免疫システムの異常が、乾癬という病気の根本にあることを理解しておくと良いでしょう。
乾癬の発症や悪化には、様々な環境要因が「引き金」として関わっています。
遺伝的な素因を持っていても、これらの引き金がなければ発症しないこともあります。
具体的な要因としては、仕事や人間関係などの精神的なストレス、不規則な生活や睡眠不足、喫煙、肥満などです。
また、風邪や扁桃炎などの感染症、皮膚のケガやこすれ(ケブネル現象)、一部の薬剤なども症状を悪化させるきっかけになることがあります。
これらの引き金は、ご自身の努力で避けられるものも含まれているため、生活習慣を見直すことで、症状をコントロールしやすくなる可能性があることを覚えておきましょう。
尋常性乾癬は、決して人にうつることはありません。
乾癬は、細菌やウイルスによる「感染症」ではなく、体内の免疫システムの異常によって起こる「炎症性」の病気であるためです。
そのため、皮膚に直接触れたり、温泉やプールに一緒に入ったり、美容院で施術を受けたりしても、他の人にうつす心配は全くありません。
「かんせん」という響きが「感染」を連想させるため、誤解されやすいのですが、この2つは全くの別物です。
周りの人にうつる病気ではないという正しい知識を持つことで、ご自身の不安を和らげ、周囲の誤解を解く助けにもなるはずです。
乾癬は症状の現れ方によって、主に5つの種類に分類されます。
乾癬と診断された場合、そのほとんど(約90%)は最も一般的な「尋常性乾癬」です。
しかし、それ以外にも特殊なタイプの乾癬が存在し、症状や治療法が異なります。
具体的には、関節の痛みを伴う「乾癬性関節炎」、水滴のような小さな発疹が全身に出る「滴状乾癬」、
発熱とともに膿を持つ発疹が現れる「膿疱性乾癬」、全身の皮膚が赤くなる「乾癬性紅皮症」があります。
ご自身の症状がどのタイプに当てはまるのかを正しく理解し、適切な治療を受けることが重要です。
乾癬性関節炎は、皮膚の症状に加えて関節に痛みや腫れ、こわばりが現れるタイプの乾癬です。
近年増加傾向にあり、乾癬患者さん全体の約15%に見られると報告されています。
多くの場合、皮膚症状が始まってから数年後に関節症状が現れますが、同時に始まったり、逆に関節症状が先に出たりするケースもあります。
特徴的な症状として、手足の指の第一関節が腫れる、指全体がソーセージのように腫れあがる(指趾炎)、アキレス腱の付け根が痛む(付着部炎)などが挙げられます。
皮膚の症状だけでなく関節の痛みや違和感を感じた場合は、放置せずに主治医に相談することが、関節の変形を防ぐために非常に重要です。
尋常性乾癬以外にも、特徴的な症状を持つ特殊なタイプの乾癬があります。
「滴状乾癬」は、直径1cm以下の水滴のような小さな発疹が全身に多発するタイプで、子どもや若年層に多く見られます。
風邪や扁桃炎などの感染症、特に溶連菌感染が引き金となって発症することが多いのが特徴です。
「膿疱性乾癬」は、発熱や倦怠感とともに、膿を持った発疹(膿疱)が多発する重症なタイプで、国の指定難病とされています。
また、「乾癬性紅皮症」は、尋常性乾癬の症状が全身の90%以上に広がり、皮膚全体が赤くなってしまう状態で、入院治療が必要になることもあります。
これらの特殊なタイプは頻度が低いものの、正しい診断と迅速な治療が求められます。
乾癬の診断は、多くの場合、皮膚科専門医による問診と視診によって行われます。
医師は、乾癬に特徴的な発疹(紅斑、鱗屑など)の見た目や、症状が出やすい部位(頭皮、ひじ、ひざなど)を注意深く観察します。
いつから症状が始まったか、家族に同じ病気の人がいるか、悪化のきっかけになった出来事はあるか、といった問診も診断の重要な手がかりとなります。
視診だけでは診断が難しい場合や、他の皮膚疾患との区別が必要な場合には、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる「皮膚生検」が行われることもあります。
関節の痛みを伴う場合は、関節リウマチなどとの鑑別のために、血液検査やX線検査が追加されることもあります。
多くは専門医の診察で診断がつくため、気になる症状があればまずは皮膚科を受診してみると良いでしょう。
尋常性乾癬の治療は、症状の重さや範囲、患者さんのライフスタイルに合わせて段階的に選択されます 。
治療の選択肢は一つではなく、様々な方法を組み合わせながら、症状をコントロールすることを目指します。
治療の基本となるのは、患部に直接薬を塗る「外用療法」です。
症状が広範囲に及ぶ場合や外用療法で効果が不十分な場合には、紫外線を照射する「光線療法」が検討されます。
さらに重症なケースでは、飲み薬による「内服療法」や、注射薬である「生物学的製剤」といった全身に作用する治療が行われます。
どの治療法が最適かは一人ひとり異なるため、医師とよく相談しながら自分に合った治療計画を立てていくことが大切です。
外用療法は、乾癬治療の基本であり、多くの患者さんが最初に行う治療法です。
主に、皮膚の炎症を抑える「ステロイド外用薬」と、皮膚細胞の異常な増殖を抑える「活性型ビタミンD3外用薬」「AhR調整薬」の3種類が用いられます。
これらを単独で使ったり、2つの成分が配合された薬を使ったりして治療を進めます。
薬の効果を最大限に引き出すには、正しい使い方が非常に重要です。
薬は強くこすり込まず、発疹の上に優しくのせるように塗り広げましょう。
塗る量の目安は、人差し指の第一関節まで出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積です。
入浴後など皮膚が清潔で潤っている時に塗ると、薬が浸透しやすく効果的と考えられています。
光線療法は、乾癬の症状が広範囲に及ぶ場合や、塗り薬だけでは改善が難しい場合に選択される治療法です。
病変部に特殊な紫外線を照射することで、皮膚で過剰に働いている免疫反応を抑え、症状を改善させる効果が期待できます。
治療には主に「ナローバンドUVB」やエキシマライトという種類の紫外線が用いられます。
治療はクリニックで週に1〜2回程度行い、1回の照射時間は数分程度と短時間で済みます。
この治療は健康保険が適用され、3割負担の場合、1回あたりの費用は1,000円程度です。
痛みもなく、比較的副作用が少ない治療法のため、外用のみで改善が乏しい場合や」広い範囲の症状に悩んでいる方は医師に相談してみるのが良いでしょう。
症状が重い場合や、外用療法・光線療法で十分な効果が得られない場合には、飲み薬による内服療法が検討されます。
内服薬にはいくつかの種類があり、それぞれ作用と注意点が異なります。
まずは免疫細胞内の酵素の働きを調整するPDE4阻害薬(オテズラ®)を検討します。皮疹や関節痛がこれだけでコントロールできる場合がありますが下痢の症状が出ることがあります。
過剰な免疫反応を抑える免疫抑制薬(ネオーラル®)は、血圧や腎機能への影響をみるため定期的な検査が求められます。
皮膚細胞の異常な増殖を正常化するビタミンA誘導体(レチノイド)は、唇の乾燥などの副作用があり、服用中と服用後の一定期間は男女ともに避妊が必要です。
その他に炎症に関わる特定の経路をブロックするTYK2阻害薬など、新しい選択肢も登場しています。
これらの薬は効果が高い一方で副作用のリスクもあるため、医師による慎重な管理のもとで使用することが不可欠です。
生物学的製剤は、中等症から重症の乾癬に対して非常に高い効果を示す、比較的新しい注射薬です。
これまでの治療が体の免疫全体を広く抑えるものだったのに対し、生物学的製剤は乾癬の炎症を引き起こしている特定の原因物質(サイトカイン)だけを狙い撃ちしてブロックします。
原因物質をピンポイントで抑えるため、従来の治療で効果が不十分だった患者さんでも、皮膚症状がほとんどない状態を目指せるようになりました。
治療は、数週間から数ヶ月に一度の皮下注射で行われ、多くは自己注射が可能です 44。
この治療法の登場により、乾癬治療は大きく進歩しました。
諦めていた方も、新しい選択肢があることを知っておくと希望につながるかもしれません。
生物学的製剤などを用いた治療は効果が高い一方で、治療費が高額になることがあります。
しかし、日本には医療費の自己負担を軽減するための公的な制度が整備されています。
その代表が「高額療養費制度」で、1ヶ月の医療費の自己負担額が年齢や所得に応じた上限額を超えた場合、その超過分が払い戻される仕組みです。
生物学的製剤による治療を受ける方の多くがこの制度の対象となります。
また、過去12ヶ月以内に3回以上この制度を利用すると、4回目からは自己負担上限額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みもあります。
治療費への不安から高度な治療を諦める必要はありません。
このような制度を活用することで、経済的な負担を抑えながら治療を続けられることを知っておくと安心です。
乾癬は、治療だけでなく日常生活でのセルフケアも症状のコントロールに大きく影響します。
日々の習慣を見直すことで、症状の悪化を防ぎ、治療効果を高めることが期待できます。
特に重要なのは、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理、禁煙、そして皮膚への刺激を避けることです 15。
乾癬は皮膚だけの病気ではなく、全身の健康状態と深く関わっています。
これから紹介するポイントを参考に、ご自身の生活習慣を振り返り、できることから少しずつ取り入れてみましょう。
病気と上手に付き合っていくためには、日々の積み重ねが大切になります。
乾癬の症状をコントロールするためには、生活習慣の改善が役立ちます。
食事面では、特定の食品が直接悪化させるという証拠はありませんが、肥満が乾癬を悪化させることが知られているため、バランスの取れた食事と体重管理が重要です。
運動は、肥満解消だけでなくストレス軽減にもつながるため、ウォーキングなどの有酸素運動を無理のない範囲で習慣にすると良いでしょう。
また、ストレスは症状の大きな悪化要因となるため、趣味に没頭する時間を作ったり、適度な日光浴をしたりして、上手に気分転換を図ることが推奨されます。
さらに、喫煙は乾癬を悪化させることが報告されているため、禁煙を心がけることが望ましいです。
乾癬の症状がある肌は、バリア機能が低下し非常にデリケートな状態です。
そのため、日々のスキンケアでは「刺激を与えないこと」と「保湿」が最も重要になります。
入浴時は、熱いお湯や長風呂を避け、40℃以下のぬるめのお湯にしましょう。
体を洗う際は、ナイロンタオルなどでゴシゴシこすらず、石鹸をよく泡立てて手のひらで優しく洗うことが鉄則です。
お風呂上がりは皮膚の水分が失われやすいため、すぐに無香料で低刺激の保湿剤を全身に塗って、肌の潤いを保ちましょう。
こうした丁寧なスキンケアが、皮膚のバリア機能を守り、症状の悪化を防ぐことにつながります。
残念ながら、現在の医療では尋常性乾癬を根本的に完治させる方法はまだ見つかっていません。
しかし、これは決して悲観的になる必要がないことを意味します。
なぜなら、近年の治療法の進歩は目覚ましく、適切な治療を続けることで症状をコントロールし、ほとんど発疹がない状態を長期間維持することが可能になっているためです。
乾癬は長く付き合っていく必要のある病気ですが、治療の目標は「完治」ではなく、症状を上手にコントロールして「快適な日常生活を送ること」にあります。
新しい治療法も次々と登場しており、希望は常にあります。
一人で悩まず専門医と協力し、自分に合った治療とセルフケアを見つけることで、病気と前向きに付き合っていくことができるでしょう。
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